「獺祭」 桜井社長インタビュー(2)「記録を蓄積し経験を積むことで品質を追求する」/ジョーシス

  • 2016/5/27
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2016/05/27

2012年、旭酒造は「獺祭 磨き その先へ」という新商品を発売した。それまでの最上級品であった純米大吟醸の日本酒「獺祭 磨き二割三分」の約6倍の値段となる商品だ。この商品は「獺祭」というブランドが、さらなる高みを目指した1つの成果だ。しかし、獺祭を造る旭酒造の桜井社長は、「これはゴールではない」と断言する。これからも品質に、まだまだこだわり、磨き続けるというのだ。

桜井博志・旭酒造社長

桜井博志・旭酒造社長

最初から完璧は求めない

新規事業である地ビールビジネスの失敗によって、酒造りのキーパーソン、杜氏がいなくなってしまった旭酒造。その中で桜井社長は酒造りのノウハウを習得していった。それでも杜氏任せだった酒造りを自分と社員でどう行っていったのだろうか。

「杜氏が来なくなった最初の年、社員だけでどうやって酒造りをするかを考えました。結論は『教科書通りに造ってみる』ということでした。時間的な猶予もなく、それしか手がなかった。しかし、やってみると意外とこれがうまく行った。今からみると70点ぐらい出来でしょうか。それから、そのマニュアルをブラッシュアップしていきました。それが今の『獺祭』になったわけです。まあ、『不完璧主義』といった感じでしょうか。逆に、それがよかったのでしょう」。

「最初から満点を目指すと、それに縛られてかえって新しい発想や自由な発想ができなくなる。これは日本の企業に多いと思います。ロボット型の掃除機がいい例です。技術的には日本の電機メーカーでも作れるものでしたが、完璧主義に走り、自らがハードルを上げてしまって、海外製の製品に市場を取られてしまった。今も取り返せてはいません」。

満点ではなく、今確実に取れる70点を確実に取る。そして、70点に甘んじることなく、日々改善を加えていくことで満点を目指す。このことは、情シスの業務に当てはめてみると、満点=「万全の態勢を整えること」に固執して、物事が進まないという陥りがちな問題への大きなヒントになるだろう。

「見える化」で品質向上は仕組み化できる

「獺祭」の人気は、杜氏がいなくても美味しい日本酒を造ることができることを証明したといえる。その秘訣は「あやふやな経験と勘」に頼らない、「システマチックなアプローチ」と桜井社長は語る。

「杜氏の酒造りとは、『頭のなかの経験と勘』に基づくものです。ところが、その経験と勘は杜氏によっても個人差がある。例を挙げると、発酵を始める際の温度が毎回異なっていた。実際、杜氏の酒造りを見ていて意味がわからないものもありました」。

「社員で日本酒を造り始めた時は教科書通りに行ったわけですが、そのほうが、杜氏が作ったときよりもうまく行った。そこで気がついたわけです。『杜氏のノウハウとはさほど高度なものではない』と。そして、全ての製造プロセスで、行なったことと結果を記録して、ノウハウとして蓄積し、マニュアル化していきました。こうすることで、それまで杜氏の脳内にしかなかった酒造りが、科学的なアプローチで可能になった。そして、技量がそれほど高くない若手の社員でも、杜氏の作る酒に引けをとらない、あるいはそれ以上の品質の『獺祭』が造れるようになったわけです」。

仕込みが終わったタンクは発酵状況を常に記録し把握している。

仕込みが終わったタンクは発酵状況を常に記録し把握している。

桜井社長の酒造りで注目すべきは、マニュアルを作っても、そこで終わりにしなかったことだ。マニュアルは完成した途端に形骸化が始まる。しかし、旭酒造では常に「行動」と「結果」の記録をとり、マニュアルに反映させていった。この作業を継続し、情報を共有することが旭酒造の酒造りのレベルアップに貢献した。その結果、昨日よりも今日、今日よりも明日と、よりよい品質の日本酒ができる酒蔵になったわけだ。

量稽古が品質を上げる

獺祭では「通年生産(四季醸造)」という、従来の日本酒造りの常識を覆す生産体制を敷いている。桜井社長によると、このことが実は品質向上に一役買っているのだという。

「日本酒は気温を一定に保つ環境さえ整えば通年の生産ができます。当社では品不足の状態が続くようになり、完全空調の蔵を作って、通年生産を始めたのですが、これが結果的に社員の技量を上げることにつながりました」。

「杜氏は、季節労働職です。稲作農家の人が農閑期の副業が始まりです。一般的な杜氏は年間50回の仕込みをする。30年間、杜氏を務めたとすると1500回ほどの仕込みを経験します。しかし、当社は通年生産で仕込みを行なっているため、その回数は1年間で1700回にもなる。杜氏が生涯かけて経験する回数を1年足らずで経験できてしまうのです。当たり前ですが、数をこなせばこなすほど、(日本酒を造る社員は)早く育ってくれます。失敗も含めて『経験』とは『宝』です。通年仕込みを始めてから、本当にそれを実感しています」。

旭酒造の麹室では若い社員が麹づくりに励んでいる。

旭酒造の麹室では若い社員が麹づくりに励んでいる。

場数を踏むと人の成長は加速する。桜井社長が語る「経験」は、「教育」という点で情シスにも含蓄のある話だろう。例えば、トラブル時の対応能力。情シスにとってトラブルはあってはいけないことだ。簡単に経験する、あるいはさせることはできない。しかし、擬似的でもよいから体験する場を作り、経験を積むことをあえて勧めたい。それが、いざという時に素早く対処できるスキルにつながるからだ。

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