「獺祭」 桜井社長インタビュー(3)「欠点も個性、それを活かしてこそ組織は強くなる」

  • 2016/6/2
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2016/06/02

「獺祭(だっさい)」の製造現場では、麹づくりでコンピュータを使った温度管理、原料米の山田錦の生産に大手IT企業の農業用クラウドが導入されたことから、「IT化された日本酒造り」と喧伝されることが多い。しかし、桜井博志社長は、その報じられ方に違和感を持っている。確かに、ワープロ機の表計算機能活用をきっかけに、データを活用した酒造りを導入してはいる。その一方で、酒造りは「『人』の力によっている部分が大きい」と桜井社長は強調する。

 

桜井博志・旭酒造社長

桜井博志・旭酒造社長

何でもコンピュータを使うのが「IT化」ではない

旭酒造の製造管理部に入ると、真っ先に目に飛び込んでくるのが、壁一面に貼られた数々の折れ線グラフ。これは発酵中のタンクのさまざまな数値の記録。まさに「見える化」の見本といえるだろう。今風にいえばBI(Business Intelligence)ツールのダッシュボードのリアル版だ。

「日々、タンクごとにアルコール濃度や、さまざまな成分を分析し、それを壁に貼ったグラフ用紙にプロットしています。このように壁に貼りだすと、ぱっと見でタンクごとの変化の違いが把握できる。『これはスパークリングに向いている』とか、『このタンクとこのタンクをブレンドするとちょうどよい味になる』ということなどが一目瞭然なわけです」。

過去には、グラフについて表計算ソフトなどを使ってIT化しようと試みたもある。しかし、決定的な問題があったという。それは「一覧性」だ。グラフのよさはひと目でそれぞれの違いがわかることだ。しかし、PCの画面上では、スペースが限られるため、一目で全体が把握できなかったのだ。そのため断念したという。

紙のグラフを貼り出し、一目でタンク内の状態を把握できるようにした。

紙のグラフを貼り出し、一目でタンク内の状態を把握できるようにした。

一般に「IT化」や「システム化」というと、コンピュータを使うことを考えがちだが、アナログ的なアプローチが効率的でコストがかからずにできることもある。情報システム担当者は、このような発想の柔軟さと目的志向を持っておいて損はないだろう。

最後は個性と経験が「らしさ」を出す

会社組織にとって「人材」は重要な資源だ。ただ、人材に関して企業では「没個性がよい」とされがちな傾向がある。しかし、個性をうまく活かせる組織こそが「レジリエンス(柔軟性が高く強い)」の高い組織をつくることができる。

「人はそれぞれ個性があります。例えば、当社の『杜氏』である製造部長は『待つタイプ』、その前の『杜氏』だった私は『即断タイプ』とタイプが違います。問題が発生した時に、私はすぐに手を打ちますが、製造部長はすべてを把握してから手を打つ。私から見れば『それは遅いだろう』と感じることもあります」。

「しかし、その判断はどちらが正解というわけでもないのです。私の判断が拙速な場合もありますし、彼の判断が遅きに失したという場合もあります。重要なのは、自分のタイプを自分で認めることです。欠点=人間失格ではない。自分の欠点を分かった上で、経験から学ぶことができれば、同じミスを繰り返さないはずです。当社は見える化をしているので、どこで判断ミスしたかが容易に把握できる環境としてはやりやすいでしょう。自分の特性を自覚し、欠点はリカバリーできる人こそが成長できる。酒造りでは、人が関与することが大きい。最後の判断に個性が出ることで、仕上がりにも『その人らしさ』が出て、人が作った面白みが酒に入り込むと信じています」。

人の手間が獺祭のうまさを生み出す

人が使うものだから、人が手をかける。「獺祭」の製造は本当に人の手間がかかっている。

例えば、精米した米を仕込む前に洗う洗米では、毎日5~6トンの米を4人が手作業で行なっている。この工程で行われる米の吸水に微妙なさじ加減が必要だからだ。また、麹づくりでは、適切な水分状態を保持するために二昼夜の間、担当者が交代で、手に麹の状態を感じながら作業を行なっている。製造過程ではこのように「非常に泥臭い作業」(桜井社長)の積み重ねが続く。

麹づくりは手作業で行うことで適切な水分状態を保つ。

麹づくりは手作業で行うことで適切な水分状態を保つ。

一方で、米を蒸し上げる工程は機械が安定して大量に高品質の蒸米が作れるため、積極的に使用している。このように、「人手のほうがよい」「機械のほうがよい」という使い分けが「獺祭」のおいしさを生み出している。

会社のシステムも同じことがいえるだろう。システムの運用で自動化できるところは自動化し、人手を最小限にする。しかし、システムを使うのは人間だ。そこにユーザー視点がなければよいシステムの構築はできない。人が使うものだからこそ、人手だからできる判断や、キメの細かさにも配慮することが重要なのだ。このバランスを使い分けることが、今求められている「攻めのIT部門」への最短距離になるだろう。<了>

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