「獺祭」はこうして造られる! データを活用しつつ人の感覚も生かす21世紀の酒蔵

  • 2016/5/9
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2016/05/09

限られた土地で生産量を増やすには、上に伸ばすしかなかった

「獺祭(だっさい)」の名前の由来ともなった山口県岩国市周東町獺越。今でも獺(かわうそ)が住んでいそうな谷川の周辺に建つ、真新しい12階建ての白い建物。これが獺祭を生み出している旭酒造の本社蔵だ。

2015年に急増する需要に応えるために建て替えられたばかりで、全館空調完備で四季醸造(通年生産)に対応。その奥に見える第二蔵が完成した2012年には、まだ計画もなかったという。このことから獺祭の人気が急増していることがわかる。

谷間にそびえ立つ本社蔵。奥手中央は二番蔵。道を挟んだ向かいでは出荷用にパレットに載せられた獺祭の箱がトラックに積み込まれるのを待っていた。

谷間にそびえ立つ本社蔵。奥手中央は二番蔵。道を挟んだ向かいでは出荷用にパレットに載せられた獺祭の箱がトラックに積み込まれるのを待っていた。

桜井博志・旭酒造社長は新社屋について「元々創業の地でもあるこの場所は、山間で土地も限られているため、上に伸ばすしかなかった。すでに電気や水道などのインフラに投資をしているので、他の場所に移すに移すことも難しかった」と説明する。その言葉からは設備投資の回収は当然あるのだろうが、それ以上に創業の地への「こだわり」が感じられる。

「純米大吟醸」とは?

蔵のレポートに入る前に、まずは日本酒に詳しくない人に向けて、獺祭の特定名称である「純米大吟醸酒」について説明しよう。

実は「純米大吟醸」という表記は「清酒の製法品質表示基準」という国税庁告示で厳密に決められている。

純米大吟醸の「純米」は原材料が「米、米麹のみ」と規定されている。一般的な清酒では糖類や米以外の穀物から作られた醸造アルコールが配合されているが、これらは純米酒を名乗ることができない。

一方、「大吟醸」とは精米歩合(割合)を指す。これは、精米前の玄米に対して、どれぐらい精米したかということだ。

精米歩合は重量の割合で表せる。具体的には「吟醸酒」は60%以下、「大吟醸酒」は50%以下とされている。一般的な大吟醸酒は40%ぐらいのものが多いといわれる。そして、「純米大吟醸酒」は「米、米麹のみを原材料とし、精米歩合50%以下の米が使われている」ということになる。

「獺祭」には、「獺祭大吟醸50」「獺祭 磨き三割九分」「獺祭 磨き二割三分」という製品がある。これは精米歩合が、それぞれ50%、39%、23%ということだ。その中でも「獺祭 磨き二割三分」は日本最高水準の精米歩合といわれている。

また、獺祭には「獺祭 磨き その先へ」という製品もある。しかし、この酒には、こうした表記がない。これには理由がある。

「獺祭 磨き その先へ」は基本的には「獺祭 磨き二割三分」を超える精米歩合の米(19%~21%)で作られている。一方で、「獺祭 磨き その先へ」はその年の米の出来具合によって最適な精米歩合にする方針をとっている。

「清酒の製法品質表示基準」では精米歩合をラベルに明記する必要がある。しかし、この製造方法では精米歩合で消費者の混乱を招く恐れがある、それを避けるために精米歩合を表記しないという配慮をしているのだ。ここにも桜井社長の「こだわり」があるといえる。

日本一の酒米「山田錦」を原料に100%使う

獺祭は原料に山田錦という酒米(日本酒を作るための米)を100%使用する。この米は兵庫県で開発された。そして、生産量の8割が兵庫県だという。獺祭も70%は兵庫産の山田錦を使っている。地元産の米を使っていないので、「地酒」ではないのだ。

このことについて、「米の産地にこだわらず、おいしい酒ができる方が重要。獺祭は、山口より県外の消費が圧倒的に多いので、『地産地消』という言葉から一番遠い酒だと思います」と桜井社長は説明する。

良質な山田錦の調達は酒蔵や日本酒メーカーにとって課題だ。山田錦は作付面積が多くないため、大手酒造メーカーはじめ酒蔵が競い合って確保に走っている。旭酒造では大手IT企業と協力し、山田錦の生産農家に農業生産用クラウドを導入。良質な米の増収に結びつける活動も積極的に行なっている。

獺祭ができるまで(1)洗米 データで適正値を調整

では、実際に獺祭ができるまでの蔵の様子を紹介していこう。

原料である山田錦は最長144時間という長い時間をかけて精米される。精米後の山田錦は、精米の摩擦熱で、すっかり水分を失ってしまっている。そこで、蔵での最初の工程は、雑味の元となる米ぬかを洗い落としたあと、水に浸けて10分ほど吸水させることだ。

「ここでは、社員が4名ほどで一日に5トンほどの洗米を行います。洗米は機械を使いますが、その後の吸水作業は15kgずつ手で行います。なぜ小分けにしているかというと、入って来る米の状態によって吸水時間が異なっているからです。吸水量は0.3%以下の精度で管理されていて、最初に吸水させた米の重さを計り、適正な時間を調整します。小さいロットに分けると、作業量は増えますが、全体としての吸水量の調整が取りやすくなり品質を高めることができるのです」。

松藤直也工場長は、洗米と吸水作業について、こう説明する。また、データを取りながら適正値に調整するが作業自体は人手をかけるという。これが、旭酒造の一貫したモノづくりの考え方になっている。

米ぬかなどを洗い落とす洗米機は通常の酒蔵で使われているものより小さい。これは次工程の吸水の際、少量で細かく水分調整を行うためだという。

米ぬかなどを洗い落とす洗米機は通常の酒蔵で使われているものより小さい。これは次工程の吸水の際、少量で細かく水分調整を行うためだという。

獺祭ができるまで(2)蒸米 品質が確保できれば機械で効率化

洗米・吸水が終わったら、米を蒸す蒸米工程に入る。本社蔵では大型の連続式蒸し器が使われている。

「この機械では約40分で米を蒸し上げます。蒸し上がった米は冷やされて、エアシューターを通って、別フロアにある麹室や発酵タンクの部屋に送られます。以前は釜を使って蒸していたのですが、蒸した米を手作業で取り出さざるを得ず、1日に2トン弱しか生産できませんでした。今使っている機械は連続式で蒸すことが可能で一時間で1.5トンの処理できます。連続式の機械は当初品質の面で心配があったのですが、実際に使ってみると予想以上の品質で、心配は杞憂(きゆう)に終わりました」(松藤工場長)。

このように、効率化できるところは効率化するという点も旭酒造のポリシーとなっている。

 

1時間に1.5トンの蒸米を生産できる蒸し器。これにより蒸米工程の効率は大幅に向上した。

1時間に1.5トンの蒸米を生産できる蒸し器。これにより蒸米工程の効率は大幅に向上した。

獺祭ができるまで(3)麹づくり デジタルで正確に管理し、最後は手で確かめる

発酵に欠かせいない麹づくり。特に純米大吟醸酒は100%の米で作った麹を使って発酵させるため、麹づくりは獺祭の味を決める重要な工程だ。

安価な日本酒では機械製造の米麹が使われるが、純米大吟醸酒のみを作る旭酒造では、すべて手作業で麹を作っている。

「麹づくりでは温度と湿度管理が重要で、温度に関しては空調で常に一定の温度を保っています。湿度の管理は、台ごとにばらつきがあるので、台にはかりの機能を付けてデジタルで常に表示しています。しかし、実際には台の上でも乾燥具合のバラつきがあるので、最後は人の手で触って湿度の具合を管理します。麹づくりは二昼夜半かかりますが、この間4人の担当者は昼夜問わず、つきっきりで作業を行なっています。獺祭はすべて純米大吟醸なので、たくさんの麹を作る必要があり、本社蔵では2つのフロアを使った麹室で麹づくりを行っています」(松藤工場長)。

麹室の麹種つけ台。一般的な酒蔵では、この台で2~3台分しか麹づくりを行なっていないという。

麹室の麹種つけ台。一般的な酒蔵では、この台で2~3台分しか麹づくりを行なっていないという。

台の下にある重量計。常にチェックが行われ、台による乾燥具合のバラつきを最小限にしている。

台の下にある重量計。常にチェックが行われ、台による乾燥具合のバラつきを最小限にしている。

種付けの様子。手作業でていねいにまんべんなく麹菌を米にまぶしながら、米の乾燥具合や温度を手に感じて作業を行う。データは参照するが、最後は手の感覚が重要になる。

種付けの様子。手作業でていねいにまんべんなく麹菌を米にまぶしながら、米の乾燥具合や温度を手に感じて作業を行う。データは参照するが、最後は手の感覚が重要になる。

獺祭ができるまで(4)醸造 温度管理はコンピュータ制御では難しい

日本酒造りで一番時間がかかる工程、それが「発酵」だ。具体的には蒸米と麹室で作られた米麹をタンクに入れて発酵させる。これは「仕込み」と呼ばれる作業だ。

「仕込みは三段仕込みといい、最初はタンクの4分の1ほどの量を仕込み、2日ほど休ませて、4日目にその倍、5日目にさらにその倍の仕込みを行います。そこから35日間発酵をさせます。最終的には40日間かかります。ここではほぼ毎日仕込みを行なっており、年間では1700回ほどになります」と松藤工場長は説明する。

温度管理については「仕込みは、きめの細かい温度管理が必要で、最初は酵母が生きられるギリギリの温度5度からスタートし、最高12度までの細かい温度調整を行います。タンクには温度計がついていて、無線LANで事務所のパソコンに情報を飛ばして、温度が上がり過ぎると手作業でタンクを冷却します。この調整は、コンピュータ制御では、まだまだ難しい部分です」と話す。最後は人によるきめ細かい判断と調整が必要なのだ。

発酵タンク。このフロアに100本あり、3フロアで発酵を行なっている。

発酵タンク。このフロアに100本あり、3フロアで発酵を行なっている。

仕込み当初はまだ米の形が残っている。

仕込み当初はまだ米の形が残っている。

麹が米の糖分を溶かし盛んに炭酸ガスを出している。

麹が米の糖分を溶かし盛んに炭酸ガスを出している。

発酵が進み、液状になったタンク内の様子。

発酵が進み、液状になったタンク内の様子。

獺祭ができるまで(5)搾り 酒の味が変わらない遠心分離機も導入

40日間の発酵が終わると、酒と酒粕を分ける搾り工程に入る。本社蔵には、まさに「搾る」という言葉がふさわしい大きな機械が導入されている。

ここでは発酵タンクから送られてきた原酒が風船のようなフィルターに落とされ、空気圧で圧搾されると下に酒が落ち、フィルター内には板状の酒粕が残る。この後、酒は瓶詰め工程に回される。

「薮田式圧搾機」と呼ばれる搾り機。日本酒業界では多く使われている機械だという。

「薮田式圧搾機」と呼ばれる搾り機。日本酒業界では多く使われている機械だという。

旭酒造では薮田式圧搾機とは別の搾り機も導入されている。それが「遠心分離機」だ。これはフィルターを通さずに酒と酒粕を分けることができるため、酒の味に影響を与えることなく搾ることができるのがメリットだ。酒どころの秋田県で開発された。商業ベースで遠心分離機を導入したのは、旭酒造が初めてという。

一方で、「遠心分離機で一度に搾ることができるのは、60リットルのもろみから40リットルの酒です。そして、1日300リットルが限界です。したがって、残りは薮田式の機械で搾っています」(松藤工場長)といい、大量生産をできないことが最大の難点だという。

酒の味に影響を与えることなく搾ることができる遠心分離機。商業ベースで導入したのは、旭酒造が初めてだという。

酒の味に影響を与えることなく搾ることができる遠心分離機。商業ベースで導入したのは、旭酒造が初めてだという。

獺祭ができるまで(6)品質管理 醸造データを見える化、壁一面に貼ったグラフが味を守る

壁一面に貼られた各タンクの発酵状況を示すグラフ。アナログだがタンク内の様子が一目でわかり適切な判断につながっている。

壁一面に貼られた各タンクの発酵状況を示すグラフ。アナログだがタンク内の様子が一目でわかり適切な判断につながっている。

製造部の部屋に入ると壁一面に貼られたグラフが、目に入ってくる。このグラフは、すべての発酵タンクの状況を記録したものだ。タンクは毎日チェックをして、ここで成分分析が行い、グラフに記録する。

「パソコンでの管理も考えたのですが、一覧することができないので、こういう形(紙で貼り出す)になりました。これならタンクごとの発酵具合が一目瞭然です。出荷する際のブレンドの判断などを決めることも簡単にできます」と松藤工場長は説明する。

また、グラフの記録はパートの女性が行っている。「現場の人間がやると、どうしても手心を加えてしまい、正しいデータにならなくなってしまう」(松藤工場長)というのが理由だという。

発酵状況を示すグラフ。数値と日数を計算したものを記録する。

発酵状況を示すグラフ。数値と日数を計算したものを記録する。

科学的なデータを使いながらも、最後は人手をかけるという「こだわり」に貫かれたのが獺祭の製造現場だった。蔵は要予約だが、一般の人も見学ができるので、興味がある方は訪ねてみてはいかがだろう。

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