生産効率6割向上!IoT化で業務改善を実現した旭鉄工の軌跡

  • 2016/12/9
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2016/12/09

愛知県碧南市にある旭鉄工本社

日本で「ものづくり復権のキー」として注目を集める製造業のIoT化。しかし、その名だけは広く取沙汰されるものの、導入については多くの製造業がまだ足踏み状態だ。また、IoT化を積極的に進めようとする企業も最近は増えてきているが、課題が少なくない。ひとつはコストだ。IoT化の先に何があるのか?明確なイメージを描けないなか、ときに数千万円にも及ぶコストが必要となれば、やはり導入は決断しがたい。そして、ITの知見がなく、専門の部門を持たない企業には、そもそも導入後の運用自体が可能なのかといった懸念もある。この2つがボトルネックとなり、特に中小製造業では普及が進まないと聞く。だが、それらの課題を自社のみで解決しIoT化を実現し事業を推進させているのが、愛知県碧南市に本社を置く自動車部品メーカー「旭鉄工株式会社」だ。生産効率6割向上させたという同社の取り組みは、まさに、これからの製造業IoT化における一条の光ともいえるのではないだろうか。そこで、ジョーシスでは、代表取締役社長・木村哲也氏に。IoT化への取り組み、業務改善の軌跡などの話を伺った。(取材・文:坂本嶺 撮影:松波賢)

昭和の機械がスマホとつながる。安価で簡単、スモールスタート可能な画期的な業務改善IoTシステム

旭鉄工 木村社長

——IoT化が中小企業にまだ浸透していない中、実施を決断したのはなぜですか?

 

改善活動を楽にする事を考えただけです。それがたまたまIoTを使ったシステムだった。ただ、昔から新しいモノ・コトにチャレンジするのが好きな私の性分もあったのかもしれません。

海外ヒストリックラリーにも度々出場

東京大学ではライフル射撃に挑戦したり、子供の頃から自動車が好きで、自動車部にも所属して、それこそ勉強そっちのけで熱中していました(笑)。今でも車好きで、ラリーモンテカルロヒストリックなど海外ヒストリックラリーにも度々出場、今年の3月にはタスマニアの大会にも。あとは、セスナの操縦を習ったり・・・、振り返ると、少し人と違ったことに挑戦したいという気持ちが強いのかもしれませんね。また、話を会社に戻せば、私は、すべての人が「付加価値の高い仕事」をすべきだという気持ちがあり、そこにIT/IoTが寄与すると考えていました。

——貴社の事業概要についてお聞かせください

まず私のキャリアからの説明となりますが、以前はトヨタ自動車におり、実験分野が長いのですが直近は生産調査部という部署で、内製工場や社外のTPS改善活動に従事していました。そして、縁あって、2013年に取締役として旭鉄工に参画。20164月に3代目社長に就任しました。当社はご覧いただいたように町工場の自動車部品メーカーで、設立は1941年。トヨタを主な取引先とし、ブッシングバルブガイドやデリバリーパイプといったエンジン部品を主に、シャフトアッシーシフト&セレクトレバーといったトランスミッション部品、また、フックトランクションという車の牽引時に使用する部品なども製造しています。

現在、本社工場のほか、西尾工場(愛知県西尾市)と、タイに設立した子会社で事業を展開し、従業員は約480名。前年期の売上高は158億円です。IoT化については、生産数や停止時間など現場で必要な情報をリアルタイムに自動検出し、見える化する「製造ラインモニタリングシステム」を自社で開発・運用。20169月に設立した「iSmart Technologies」という会社で他社に対するサービス提供も行なっています。

旭鉄工の工場内部 まさに「昭和の工場」である

——「製造ラインモニタリングシステム」はどのような背景から生まれたシステムなのでしょうか?

 

2014年に取引先企業さまより「カイゼン指導」を受けたのがきっかけでした。具体的には、「生産管理板」導入による生産性向上の取り組みです。生産管理板は、時間帯ごとの生産数や設備の停止時間やその理由などを記す改善の道具ですが、当社にとってはそれが非常に困難。というのも、数ラインを1人で担当する従業員がいるなかで、あらたに記入という仕事が加わるわけですから、なかなかスムーズにことが運べなかった。作業中に決められた時間毎に数値を記すことは煩雑さはもとより、忙しさからの記入忘れもあり、現場からSOSが上がっていました。そこで検討したのがIoT化でした。

——具体的にどのように検討し、アイデアを練り、開発を行っていったのですか?

 

当社にはIT部門があったわけでもなく、社内に詳しい人物がいたわけでもなかったので、まずは情報収集を行いました。201310月に社内の改善を推進するために作った『ものづくり改革室』のメンバーたちとさまざまなベンダーのセミナーや展示会で情報を徹底的に集めました。いろいろな場所に足を運んでみた結論は、「コストが掛かりすぎる」ということ。当社の製造機械には昭和の時代から長く使っている古いものが多く、ベンダーが提供しているIoTプラットフォームを導入するにしても、実現させるためには相当な設備改造が必要で、すぐに千万円単位の必要となってしまう。また、表示は綺麗だけど欲しい情報が見えない。説明員の方に「どうやって改善に使うの?」と聞くと「それが問題なんです」と答えたベンダーの方もいらっしゃいました。役に立つイメージが湧かない。じゃあ必要なものは自分たちで作ってしまおう、と考えたわけです。

お話ししたように、私たちはIoTの知見に乏しく、当初は暗中模索でのスタートでした。秋葉原で買ってきたRaspberry Piを解説本を見て動かしてみたりもしました。いきおい複雑なことは出来ませんから「製造ラインの正常・異常の信号を拾って集計するだけにしよう」とテーマが定まりました。そうして開発したのが、社内では第一世代と呼んでいる「可(べき)動率モニタ」でした。設備の稼働時間と停止時間をスマホやタブレットで確認できるもので、既存設備に取付けた送信機の情報を、無線で受信機からクラウドへ。そこからスマホやタブレットで共有する仕組みです。

ただ、これだけでは機械の停止時間を見える化しただけで、直接、業務改善にはつながりません。そこで、当初は停止時間を減らすため、毎日の「ラインストップ会議」で問題の確認とフォローを行ったのですが・・・、なかなか停止が減らない。話を聞くと、どの機械が不具合で止まっているのかどうかがすぐに把握できないということでした。製造ラインの異常を表示する装置「あんどん」の導入が普通の手段なのですが、「あんどん」は専用の表示装置をワンオフで作ることになりますし高いところに付けるので高所作業が必要です。また、1つが高価なため皆が見えるような場所に何箇所も設置するのは難しい。また、ラインのレイアウト変更をするときには配線がやり直しとなり、またコストがかさんでしまう。結局、弊社内ではあまり使われなくなる事例がありました。

その時、可動率モニタで用いた無線通信の仕組みを応用すれば、あんどんの代わりになるシステムを安価に構築できるのではと思いつきました。そこで開発したのが「i スマートあんどん」です。ライン呼出や設備異常などの稼働状況を無線で汎用性のディスプレイに表示、スピーカーで報知するシステムです。結果、導入コストはベンダーが提供するものの10分の1以下に抑えることができました。

——課題を11つ検証し、順次IoT化を進めていったわけですね。

 

そうです。IoTで取れるからあれもこれもと欲張るのではなく、本当に現場で欲しいものだけを導入していくイメージですね。

i スマート あんどん」の次には、「サイクルタイムモニタ」という第2世代システムを開発しました。可動率モニタでは機械の停止時間を把握でき、「i スマートあんどん」で異常をリアルタイムに察知できるようになりました。しかし、それでも生産性の向上は十分ではない。そこで調べて分かったのは、部品ひとつあたりの製造時間、つまりサイクルタイムの把握が不十分ということです。ラインが動いている時間をサイクルタイムで割ったものが生産個数になりますから、生産時間が同じでもサイクルタイムが長くなると個数が減ってしまう。これまでサイクルタイムは人がストップウオッチで測ってましたが誤差を含むし24時間測定は出来ません。そこで、これまでに培った技術を応用し設備から信号を出してサイクルタイムを0.1秒単位で自動測定できるようにしました。普通なら信号を出せる制御装置のようなものを設備に付けるのですが115万円と高価ですし、そもそも古い設備には付かない。そこで、部品が1つ完成したという情報の収集を光センサとリードスイッチという部品を使って行いました。秋葉原(東京都千代田区)では150円、250円で買える汎用センサです。実際に今でもそれらは秋葉原で購入しています。

 

——可動率モニタ、i スマートあんどん、サイクルタイムモニタがもたらした恩恵はどのようなものでしたか?

 

「生産状況と個数」、「停止時刻・時間」、「サイクルタイム」の情報を自動収集できるようになり従業員の労力を低減できました。記入漏れもなくなり、精度も上がりました。これまでは、生産数カウンターの数字を特定の時間に読み取ったり機械の動きをストップウォッチで計測し、紙に記入するほかなかったわけですから、これはとても大きい。従来の「事前調査」→「改善」→「フォロー」はすべて人の手によるものでしたが、事前調査とフォローのデータ収集の多くが自動となり、人は現地現物の確認と改善に集中できるようになりました。また、改善結果をすぐにデータで確認できるので、モチベーション維持にもつながっています。さらにサイクルタイムを0.1秒単位で表示できるので、今まで測定困難だった僅かな生産性向上も把握出来るようになり小さな改善を積み重ねる文化が出来てきたのは大きな成果です。

具体的な事例では、本社工場にある16ラインで平均764/hだったものが、システム導入で909/hとなり、生産性は15パーセント向上。2ライン増設予定だったのが不要となり、設備投資費54百万円・日々の残業3時間削減、さらに300㎡に相当するスペースの節約を実現しました。

 

加えて、西尾工場のある製品については、生産性69パーセント向上。ここも2ライン増設の予定を不要とすることで14千万円の設備投資・100㎡のスペース節約削減を達成。さらに休日出勤廃止どころか平日の定時帰宅も実現することができました。

——IoT化を進めるにあたって、現場からの反対の声はありましたか?

 

これについては、『ものづくり改革室』次長兼室長の黒川がお答えします。

『ものづくり改革室』次長兼室長 黒川氏

【黒川氏】「現場の負担を減らす」事がシステムの狙いですから反対という意識はありませんでした。また、当初はデータを使いこなして改善に結び付けるまでには時間が掛かりましたが成果が出始めると現場自身が改善を面白いと感じ始めました。結果として現場のスキルも上がりましたし、0.1秒にこだわる文化も醸成されて来ましたから改善スピードもレベルも上がりました。また、皆で考え取り組んでいくというスタイルもよかったのだと思います。他社のお仕着せのシステムを買わずに自分たちが現場で必要とするシステムを開発する。システム開発者と使う人が同じなんです。失敗も数々ありましたが、失敗しても良いからやれと社長が言いますし、効果が上がればそれを実感することができる。あと、社長と現場が近いんですよ。一緒になって知恵を出しますし、自分でデータを確認し改善効果に気づいたら現場に来て褒める。社長は頻繁にデータを見ていて、現場はその事を知っています。成果を挙げたメンバーの社長表彰も実施したりしました。見えたデータはあくまでポジティブ側で使うのが大事です。それらのおかげもあり一丸となって改善を進めることができたと感じています。

——木村社長、最後に今度の展望をお聞かせください

 

 先にお話したように第2世代までは自社開発のシステムでしたが、さらなる機能拡張を考えたときに自社では追従しきれなくなり、レッドハットさんに開発をお願いしました。そしてビジネスルールマネジメントシステム「Red Hat JBoss BRMS」を採用して汎用性と拡張性を持たせた「第3世代」を作り上げました。そして弊社で大きな成果を出したものを世間でもお使い頂きたいと考えi Smart Technologiesを設立、「i スマートあんどん」、「サイクルタイムモニタ」を統合した第3世代システムを「製造ラインモニタリングサービス」とし、サービスをスタートさせています。

サービス提供にあたっては、中小製造業が導入しやすいように導入コストも1ライン9,800円~(月)という驚くべき低価格帯を実現しました。

新会社 i Smart Technologiesを2016年9月に設立

昨今、日本でもインダストリ4.0に注目が集まっていますが、実をいえば、そういった潮流は意識していません。というのも、それらは大企業向けの大掛かりなものなのです。これからIoT化を進めましょうという流れにあっても、当社含め中小の製造業にとって既存の設備はそうたやすく変えられませんし大きな投資も出来ません。ですから、工場全体のIoT化というよりも、必要なところから部分的なスモールスタートが可能で、かつ製造業が必要な最小限のデータを簡単に把握できるシステムとして、製造ラインモニタリングサービスを提供しています。

その効果は当社で実証済ですし、そのデータは見やすく理解しやすいため気付きを得やすい。お使いいただいてるお客様は例外なく「こんなにラインが止まっているのか!」とお思いになるようです。今後は、より当社の生産性の向上をめざすとともに、生産性向上のためのIoT化で悩む多くの中小企業に当サービスを積極的にご紹介していきたいと考えています。

旭鉄工 http://www.asahi-tekko.co.jp/

i Smart Technologies http://istc.co.jp/

 

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